2005年10月01日

『機』2005年10月号:ちいさな犠牲者たち 大石芳野

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 どこの地であっても子どもを見かけるたびに、平穏ななかで逞しく成長してほしいと願う。子どもは未来を築いてくれる宝だから、大切に守り育てるのは大人の役目だ。にも拘らず、戦争や内乱、恐怖政治などが世界各地で次々と起こる。
戦禍に巻き込まれながらも、子どもたちは小さな体で必死に家族を気遣う。それでも、真っ先に犠牲になるのは、弱いが故に子どもたちが多い。飢えや困窮、病気、寒さや暑さ、さまざまな虐待、弾丸の雨……想像しただけで震えがくる過酷な状況がかれらを襲う。
 子どもにどれほどの責任があったのだろう。かけらもあるはずがない。にも拘らず、理不尽な事態がいのちを脅かす。時に深く憂いつつ、時に涙声になりながら、崖縁に立たされたような表情をしながらも、子どもたちは語りはじめる。
 悲しみや苦しみ、絶望などを押し殺しながら、笑みを浮かべて、懸命に生きようとする。そのなかで垣間見せる異様に大人びた表情とその奥に潜むやり場のない必死の視線を、わたしが向けたレンズに注ぎ込む。その真剣で鋭い力を前にして、わたしはシャッターを押すたびに狼狽えてしまう。


(おおいし・よしの/写真家)