2019年06月24日

『機』2019年6月号



社主の出版随想

▼6/2付の『毎日新聞』一面の「余録」で〝塩爺(しおじい)〟の愛称で国民から愛された塩川正十郎氏の一面を知った。最晩年の十年間親しく付き合わせて頂き、自伝『ある凡人の告白』を二〇〇九年に出版させてもらった。二〇〇四年から始まった企画「後藤新平の全仕事」以来の関係だが、実に読書好きの方だった。小社にも度々お見えになり、催合庵に並べてある全刊行書籍を眺めた後、笑みを浮かべながら一言「ようこんな本を出しててやっとるな、奇跡やなあ」と。ある時、「今、早稲田の近くに来とるから、あと三〇分後に行ってもええか」と。にこやかな顔で現れるや、「こないだ○△を読んだけど、ほんま面白かった。○△を五〇冊ほど事務所に送っといて。商売うまく行ってるか」と温かいお声を何度もかけていただいた。

▼又、新橋あたりに用事があって、「先生、これからちょっと寄らせて頂いていいですか」というと二つ返事で「いいよ」。先生は、応接間の大テーブルで大冊を読んでおられた。「何をお読みですか」と尋ねると、「久しぶりに『国富論』読みとうなってな。オモロイなあ」と。齢九十を前にしていまだ学への志は一向に衰えない様子だった。

▼大阪の千里で行われた葬儀も、大層な数の方々が詰めかけられ、弔辞に立った小泉純一郎元総理は、政治家になってからいかに〝塩爺〟に支えられ導かれてきたかを切々と話され、時には感極まり絶句されることもしばしばであった。亡くなられて今秋で早や四年。この記事を読みながら、生前の塩爺の温かい励ましに、感謝の念一入である。(亮)

六月号目次

■世界の一七〇〇ヶ所に、四千万本の木を植えてきた男の生涯!
人間は、「森の寄生虫」 宮脇 昭

■ロシア式交渉と日本式交渉とは、どう違うのか?
今、ロシアにどう向き合えばいいか? 木村 汎

■中村桂子コレクション(全8巻)『ひらく――生命科学から生命誌へ』
科学技術に吸収されない新しい知「生命誌」 中村桂子

■四半世紀間の書評約一二〇本と書物論を集成
書物に抱かれて 山田登世子

〈インタビュー〉在日朝鮮人の源流、猪飼野 金時鐘

〈寄稿〉岩井忠熊先生の存在 高木博志

今、レギュラシオン理論から何を学ぶか 植村博恭

〈リレー連載〉近代日本を作った100人63「由利公正――『五箇条の御誓文』の草案者」本川幹男
〈連載〉今、日本は2「禁じられた遊び」鎌田慧

    沖縄からの声Ⅴ―2「ニコライ・ネフスキーと宮古島」安里英子

    『ル・モンド』から世界を読むⅡ―34「スペインの極右化?」加藤晴久

    花満径39「独り子の歌(三)」中西進

    生きているを見つめ、生きるを考える51「人類すべてを一集団とするモラルを求める」中村桂子

    国宝『医心方』からみる27「鮒鮓のルーツが明らかに」槇佐知子

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