2010年09月01日

『機』2010年9月号:阿留辺幾夜宇和 河合隼雄

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 西川千麗さんの創作舞踊「阿留辺幾夜宇和」を見たときの深い感動は、今も忘れることができない。
 この踊りが生まれる基となった書物『明恵・夢を生きる』の著者として、名僧明恵の清々しく、且つ、雄々しく生きる姿が、どのように表現されるのか、固唾を飲む想いで千麗さんの姿を凝視し続けた。それは期待以上の舞であった。
 「あるべきやうは」は、明恵が自分自身に向けてやむことなく問い続けた厳しい問いであったと思う。そして、その問いを一身に受けて、千麗さんは身体の動きによってその答えを提示してくれていた。そこでは、明恵が男性であり、千麗さんが女性であるという区別はまったく超えられていた。
 千麗さんの舞は、東洋と西洋とか、今と昔とか、場所や時間の差を超えて、人々のたましいに作用するもの、と私は思う。できるだけ多くの人に見ていただきたいと願う所以である。

(構成・編集部/写真・広瀬飛一)
(かわい・はやお/臨床心理学者)