2010年04月01日

『機』2010年4月号:日本の読者へ 劉霞

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 二〇〇九年二月、貴国の作家である村上春樹氏がエルサレムで受賞についての感想を発表しました。(略)彼はイスラエルのペレス大統領を前にして、近頃のイスラエルの軍事行動に抗議する日本の輿論を伝え、さらに、彼がずっと心に留めている個人的な秘密――「もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます」というメッセージを表明しました。
 彼の立場は、私の立場でもあります。私自身もひとりの芸術家であり、絵を描き、写真を撮り、詩を書きます。私の仕事、私の作品、そして私自身も、すべて「卵」の側に属していますが、強権という高い壁の前では何の価値もないように見えて、いともたやすく粉々に砕けてしまいます。けれども、ずいぶん前から、これは私の選択なのです。(略)
 いま、私の夫劉暁波は、牢獄に囚われているために、人びとから「英雄」として見られています。でも本当は、彼はひとりの闘士であるだけでなく、私と同じなのです。私たちは、細やかで美しいものに対する敏感さと心から愛する気持ちを同じように抱いています。一緒にいる時には詩を朗読しますし、ふたりともツベターエワやリルケの詩が好きで、それぞれお互いに詩を書きます。そう、それは彼が前回労働矯正所に収容されていた時のことです。私たちの結婚も、信じられないことだと思われていました。私と彼は、労働矯正所の中で結婚式を挙げたのですから。
 「壁はあまりに高く硬く、そして冷ややかです。もし、我々に勝ち目のようなものがあるとしたら、それは我々が自らの、そしてお互いの魂のかけがえのなさを信じ、その温かみを寄せ合わせることから生まれてくるものでしかありません」――(略)村上春樹氏が語ったのは、まさに劉暁波の立場そのものであり、また同時に、彼に対する支持と励ましでもあり、中国の良心の囚人たちと、不正な審判を受けたすべての人びとに対する支持と励ましでもあるのです。
 日本の多くの読者と識者のみなさんが、劉暁波と私のことを気にかけてくださることに感謝いたします。そして、中国の民主化に対する長期にわたるご関心とご支持に感謝いたします。(略)(構成・編集部)

劉霞(劉暁波・妻)
及川淳子訳