2005年04月01日

『機』2005年4月号:今、世界の中で日本外交はどうあるべきか? 崔文衝+飯塚正人+小倉和夫+木村汎+辻井喬 (司会)御厨貴

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東アジア共同体をどうつくるか
 「今、世界の中で日本外交はどうあるべきか」ということを考えてみれば、EU、ヨーロッパ連合のようなものを、実質的な代案として提起できるのではないかと思います。なぜならばEUのようなスタイルというものは、多様な地域の自立を後ろから支えてくれる、後押ししてくれるものであると思われるからです。
 ところが不幸にも東アジアには、様々な地域を一つにまとめ上げることのできる共通したアイデンティティがありません。ヨーロッパにはキリスト教という共通したアイデンティティの基盤があります。これがヨーロッパの共通の基盤になっています。
 では東アジアの場合、どうすればよいか。まず普遍的な価値の共有を優先しなければいけないと思います。次に歴史の共有になると思います。共同体をつくるためには、歴史の共有が必要です。そうした共同体をどのようにつくっていくかがポイントになります。

目標のない日本外交
飯塚 恐らく日本における中東研究者も、それから外務省も含めて、例えば国益、利益を求めて外交を展開していくという上で、何か合意があるのかというと、それほど大きな合意は恐らくないんだと思います。一言で言えば、目標がない。
 言ってみれば善隣友好という程度です。求めるところはそれほど高くない。例えば、憎まれない、敵視されない、恨まれないようにする。今はほとんどそういう次元で議論が行われていると思います。相変わらず出てくるのは、中東の石油は生命線だからこの供給がうまくいくように、というもの。それをアメリカが保障してくれるのであればアメリカについていく。そのような次元の議論にとどまっているわけです。

百年前と現在のロシアの類似性
木村 私は百年前のロシア、つまり1905年、日露戦争のさなかにあるロシアと、今日2005年のプーチンの下でのロシアに連続性、つまり類似性があることを三点だけ御指摘したいと思います。
 まず一点目は、貧富の差が縮小されないどころか拡大して現に存在するということ。このことは百年前のロシアと現ロシアで一向に変わっていない。
 第二番目の点は、“小さな勝ち戦”をしようとしている為政者の傾向です。
 第三番目は、列強の態度です。1905年には、米英が日本側につき、仏独がどちらかというとロシア側についた。2003年のイラク戦争も、一方で米英日が参戦し、他方に仏独露が開戦に反対し、百年前とそっくりの対抗図式になった。
 世界のすべての国が、パワーポリティックスの原理で自己の国益追求をめざしている。ですから「外交の首尾一貫性」というものなど期待できない。
 しかしそんなことで果たしていいのか。これこそが、本シンポジウムの一つの問題提起でしょう。

中国と韓国の国際的責任
小倉 安全保障面とか政治面ではまだアジアはとても一緒になれないんだということをおっしゃる人が多いんですが、私は逆だと思います。なぜかといいますと、中国というものを国際社会に引き入れる。あるいは韓国が非常に大きな国に成長しています。経済的には少なくとも10本の指に入る大きな国に成長しています。ですからそういう国に、やはりアジアというものの中で国際的責任を果たしていただくことが一つの大きなポイントだと思うのです。
 そういう意味で、東アジア共同体とかは、中国というものを国際社会の中にとり込んでいく。韓国という国が国際社会の中でもっと大きな役割を果たしていただく。これは政治的な意味でです。また同時に日本が日本の役割というものを、政治的に世界的にもっと果たしていくためにも足下を固めなければならない。

国際的に尊敬される立場をどうつくるか
辻井 昔はいかに国際社会の同意をうまく得ながら植民地を確保するかというのが、一つの外交の目標だった時代もあるように思いますけれども、第二次大戦後、そういうことを言う近代国家はなくなりました。それは恐らく植民地というものが、領土という形でははっきりしなくなったからだと思います。時代によって、他の国からしぼりとるということ自体は少しも変わっていないけれども、領土を設定してしぼりとる形ではなくなったのではないか。日本は無形の植民地を持つということはしてはならないし、する力もない。そうだとすれば、日本は軍事力でなく、経済力はほどほどに活用しながら国際的に尊敬される立場をどうやってつくっていくか。そのあたりに、日本外交の一番大きな中心課題があるのではないかと、私はだんだんと思うようになりました。

歴史認識の問題
御厨 歴史的な認識の問題、まさに相手の国をどう見るか、自分の国はまたどう見られているかという問題等々、いま日本というのがどういう状況にあるかという問題です。日本という国の、これも国家レベルあるいは市民レベルで恐らく違ってくるとは思いますけれども、いわば国のあり方の認識ですね。どういう存在なのかについての把握が非常に難しくなってきているということだと思います。(構成・編集部)

(チェ・ムンヒョン/歴史学者)
(いいづか・まさと/中東研究者)
(きむら・ひろし/ロシア研究者)
(おぐら・かずお/元フランス・韓国大使)
(つじい・たかし/作家・詩人)
(みくりや・たかし/政治学者)