2003年03月01日

『機』2003年3月号:ゴルフ場廃残記 松井覺進

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日本の社会経済の問題が構造化されたゴルフ場の現状を徹底追究!

日本経済のシミュレーション
 ゴルフ場の惨状は、日本経済のシミュレーションを見ているようです。二〇〇二年に倒産したゴルフ場は、帝国データバンク調べで一〇九件、負債総額二兆二〇〇〇億円。東京商工リサーチによれば、一〇八件、二兆七七〇〇億円です。日本人が発明した預託金制度は、償還が義務づけられていて、利子も税金もかからない金集めの方法です。担保も必要としません。例えば、二〇〇〇口の会員権を、一口一〇〇〇万円でさばけば、濡れ手に粟で二〇〇億円がころがり込み、ゴルフ場が造れます。しかし、倒産ゴルフ場は、なぜかゴルフ場の土地や施設を担保にして多額の金融債務もかかえていました。
 十年たって、預託金を償還しなければならなくなった時、その原資がありません。会員権相場は暴落、預託金は返ってこない。推定七〇万人が、数百万円から数千万円をドブに捨てさせられました。この数は、今後さらに増えていきます。

日東興業をめぐる紛争
 ゴルフ場業者の最大手の一つ、日東興業をめぐる紛争は、会員と倒産企業の対立、会員側の弁護士と企業側の弁護士の考え方の相異、ハゲタカのように腐肉をあさっている外資系ファンドの思惑などを如実に示していて、興味深い。日東興業の債権者説明会の一部始終を録音をもとに再現しました。
 和議派として日東興業と妥協した会員代表が、債権者説明会で会社側を「約束を守らない」と糾弾します。その一ヶ月後、日東興業を追われた元副社長らと会食して悲憤慷慨。翌日、韓国に旅立ち、帰宅後に突然死んでしまいます。“憤死”という印象です。
 大蔵省(現・財務省)の検査官たちを飲食とゴルフで接待づけにした銀行。ノーパンシャブシャブで接待された直後の検査では、銀行の言いなりです。こうして不良債権額は低目低目に粉飾されました。業と官の癒着の一例です。摘発されたのはトカゲのしっぽ。この種の汚職は「上へ習え」なのに、トカゲ本体の事務次官は形ばかりの注意処分だけで、政府系金融機関の日本政策投資銀行に天下っています。

四五〇〇万円が紙くず
 バブル期のゴルフ場は、高額の会員権が飛ぶように売れ、元労相のファミリー企業が計画したゴルフ場の会員権は最高四五〇〇万円。元労相とその一族は詐欺罪などで逮捕され、工事を中断したゴルフ場は、産廃の捨て場としてねらわれました。会員権は、ただの紙切れになりました。
 適正な会員数は一五〇〇人ほどなのに、茨城カントリークラブは、五万二〇〇〇人に低額会員権を売りさばき、一〇〇〇億円を集めた元近鉄のプロ野球選手の主謀者は詐欺で逮捕され、ゴルフ場は破産。十年たってもこのゴルフ場の買い手はなく、工事代金の一部も未払いですから、債権者への配当金は絶望的です。
 ゴルフ場は殺虫剤、殺菌剤、除草剤、それに化学肥料や土壌改良資材を使いますから、水や空気を汚染します。バブル期は、一方で市民の環境意識が高まっていて、ゴルフ場に抵抗する地権者がいました。そこに暴力団の関連企業が地上げ屋として介在します。にぎにぎの誘惑に勝てない地区長や首長もいます。日本経済が十年以上も浮上しないのは、「ヤクザ不況」だからです。暴力団、右翼、総会屋に蝕まれている。ゴルフ場もまた、彼らの存在を抜きにしては語れません。
 「紳士のスポーツ」は変貌しました。

(まつい・かくしん/ジャーナリスト)