2003年02月01日

『機』2003年2月号:物質循環の実態と展望 白鳥紀一

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政府主導の「循環型社会」を実践レベルで問い直す!

人口の循環・自然の破壊
 循環型社会形成推進基本法が施行されて、三年近く経った。循環型社会という言葉も、国内ではよく聞かれる。さて、その内実はどうだろうか。
 物質を循環させるというのは、そう簡単に出来ることではない。植物が二酸化炭素を固定してグルコースを作り、動物がそれを利用して二酸化炭素にする炭素循環などを例に挙げて、人工的な物質循環も可能である、という人がいる。原理的にはそうだけれども、実際には至難なことだ。物質を循環させるには、エネルギーの流れが必要である。炭素循環の場合は、最初に植物が太陽エネルギーを化学的なエネルギーとして固定してくれているから、後はそのエネルギーを利用できる。要所要所でそのエネルギーを用いて物質を動かすのがそれぞれの生物種であり、それらの動きが全体として循環になったとき、生態系ができあがる。
 ところが人間の活動では、最初に投入したエネルギーは散逸してしまって、残らない。金属の製錬のように一部が化学エネルギーに変換される場合も、そのエネルギーは以後ほとんど利用されない。だからリサイクルは、人間がさらにエネルギー(従って費用)を使用して行わなければならない。それが全体として環境の保全に役立つかどうかは、疑問である。
 循環型社会は、自然が作り上げている物質循環の体系に便乗するのでなければ、形成することが出来ないだろう。そのためには、自然の物質循環を損なわないように、技術の粋を尽くさなければならない。これまでの経済成長を支えてきた技術体系にはその視点はないから、今の技術体系は製品の設計・生産段階から根本的に変更する必要がある。廃棄物をうまく分別して集める社会的なシステムも必要である。それらは、単に原理的ないし希望的にではなく、具体的に現状に即して、検討する必要がある。さらにいえば、自己の利益を求めてどこまでも経済を拡大してゆこうというエゴのぶつかり合いでできている今の社会体制の変革がなければ、循環型社会は出来ないだろう。

より具体的なアプローチを
 エントロピー学会は二〇〇一年春に『「循環型社会」を問う――生命・技術・社会』を藤原書店から出版して、どういうものが持続可能な循環型社会であり得るかを原理的に論じた。エントロピーをキーワードとして環境問題の本質を、単に技術的あるいは道徳的な問題としてではなく、生命や技術や経済や人間関係から多角的に論じたものである。幸いこの本は好意をもって迎えられ、大学などのいろいろなレベルの講義でも教科書として用いられた。それを踏まえてエントロピー学会では、二〇〇一年秋のシンポジウムを本と同名の『「循環型社会」を問う』というタイトルで開いた。原理的な考察にとどまらず、法律や技術の現状に具体的にあたって、今後の展望を論じたのである。前後に開いた研究会を含めて、このシンポジウムでの講演と議論を纏めたのが『循環型社会を創る』である。大きく四部構成で、法と政策、リサイクルシステムの経営と課題、物質循環の技術と評価、循環経済への理念と展望、について述べている。
 さらに、「循環型社会を実現するためのの視点」を追加した。これは、このシンポジウムを組織する過程で討論の素材の一つとして実行委員会で作った案を、シンポジウム後さらに改訂したもので、エントロピー論の基本から技術・経済・法律の具体面まで、エントロピー学会の二十年の活動の当面の纏めである。
 前著と同じく、これもまた楽しみながら活用して頂ければ幸いである。

(しらとり・きいち/物理学)