2002年09月01日

『機』2002年9月号:クロム禍で亡国の恐れ──『知の構造汚染』が意図したもの 上村洸

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全国に蔓延する猛毒の発がん物質「クロム」汚染の実態に迫る!

知らされていない六価クロム汚染
 かつて、東京江戸川区で六価クロム公害事件が起きた。クロム鉱滓の不法投棄現場で、工場労働者や周辺住民にガンの発病や皮膚炎患者が発生。原因はクロム鉱滓にあると因果関係が立証され、裁判で原告側の勝利に終わった。
 しかし、この時もクロム鉱滓の投棄地が全国に広がっていて、恒久処理の必要性が叫ばれたにもかかわらず、ほとんどは一時的な処理が講じられただけで、うやむやに決着がつけられた。現実に、かつての現場では、今もクロム禍の危険があるようだ。
 さて六価クロムは、クロム鉱滓などにばかり含まれているのではない。実は、セメントにクロムは含まれていて、水で練った後の分離水(ブリージング水)から、高濃度の六価クロムが溶出している、ということは関係者以外、一般にはほとんど知られていない。知らされていないといった方がいいだろう。
 セメントによってつくられるコンクリート製品(電柱や排水溝、コンクリートブロックなど)とコンクリート構造物(ダム、高速道路、橋梁、防波堤、ビルなど)の製造、施工時にこの六価クロムが溶出する。
 すなわち我々の生活環境のあらゆるところで、六価クロム禍の危険があるということである。にもかかわらず防止対策は尻ぬけ状態で、とくにコンクリート構造物からの六価クロム溶出防止にはなにも対策がとられていないのが実情である。



列島全体にクロム汚染の危険
 戦後の日本では経済復興をめざし、海外から鉱物資源を輸入し、それを加工し重工業の育成に血潮をあげた。
 その一方で、そこから排出される産業廃棄物や汚染物質の含まれた残滓などを投棄や埋め立てによって処分してきた。それは高度成長とともに次第に増え、列島全体に拡散された。
 それらが、江東区の六価クロム公害事件を引き起こしたのである。しかし、こうした事件となって発覚するのは、氷山の一角でしかないのである。景気の回復の見えない現在、倒産した工場跡地の一部では、投棄されたクロム鉱滓などの問題がまた浮上してきている。
 しかしこの問題とは別に、やはり戦後の復興の礎になったインフラ整備など大規模な公共事業のほとんどはコンクリート構造物によるもので、今日では、日本列島全体が、こうしたコンクリート構造物に覆い尽された感さえあり、さらに今後、列島のコンクリート化は進められる状況にある。
 セメント、コンクリートからの六価クロム汚染の危険性は、さらに拡大が懸念されている。

取り消された特許
 しかし対策しようがないわけではない。六価クロムをコンクリート内に閉じ込め、ほとんど外に溶出させない画期的な技術が発明されているのだ。
 ところがこの技術は一度特許を受けたにもかかわらず、取り消された。
 なぜ取り消されたか。この問題をめぐって、高裁で争われたが、ここで明らかになったのは、国民の生命、健康を侵害する恐れがあるという重大問題にのぞむ国や行政の体質が、いかに〝汚染〟されているかということである。裁判はいま最高裁に舞台を移し争われている。
 本書は防止技術の取り消しをめぐる裁判の実際をすべて公表し、六価クロム汚染の重大性とその本格的な防止を訴えるとともに、単に技術だけの問題ではない、こうした問題にいつも〝責任回避〟しようとする国や行政の構造的な汚染体質にもメスを入れようとし書かれたものである。