書評・紹介

後藤新平の「仕事」

10/17 東京新聞 「T発」欄(小社藤原良雄へのインタビュー)【木原育子氏】

■今、響く後藤の心 「国民が日本再生」

 「今こそ後藤の言葉を胸に刻みたい」
 こう力を込めるのは、出版社「藤原書店」(新宿区)社長の藤原良雄さん(六八)だ。後藤の生き方にほれ込み、「後藤新平の会」をつくり生涯を研究。自身の会社で関連書籍を三十冊以上出してきた。

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男らしさの歴史 Ⅰ 男らしさの創出 古代から啓蒙時代まで

10/15 毎日新聞 「今週の本棚」欄 【鹿島茂氏】

 おもわず定規を取り出して厚さを計ってしまった。全三巻で合計一四センチ。岩石のように分厚いが、その内容もまた超弩級の破壊力を秘めた本である。フランスの脱領域的知性がそれぞれの専門分野で「男らしさ」を検討に付した本書は、すべての人文・社会系の学問の「既知」を破壊するかもしれない爆弾であり、以後、だれもが本書を参照せずに執筆を行うことは不可能になると思われるからである。
 なぜか? これまで文明の基盤であり、倫理や哲学の物差しとされてきた多くが「男らしさ」という期間限定の「歴史」にすぎなかったことが証明されてしまったからだ。したがって「本全三巻を通じての目的は、つまり、歴史の消失をたどることである」。なんたることか! 歴史とは「男らしさ」の歴史にほかならず、いままさに「消滅」しようとしているというのである。

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完本 春の城

10/1 毎日新聞 「今週の本棚」欄 【持田叙子氏】

■「魂の故郷」天草 受苦の歴史

 これは、島原・天草の乱をその内部からこまやかに描く異色の歴史小説である。

 苛烈な乱だが、戦闘シーンは少ない。むしろ筆は哀惜をこめ、やがて踏みにじられる海辺の村のつつましい幸せを描く。
 とくに働き、採り、食べる場面がゆたかだ。蓮田家の台所を守るのは、怪力女おうめ。彼女は仏教徒だが、あるじ一家とともに殉教する。
 おうめの知恵は、凶作でも一家と客を飢えさせない。牡蠣なべ、よもぎ餅、はちみつ添えの麦だんご。一人で食べるシーンはない。みなで分かちあう。これ全て、聖餐の名画である。
 これでも解る。著者が書きたいのは、狂信的な聖戦ではない。ときにキリスト教も仏教も融けあう、純な優しい魂を生む風土の伝統なのだ。
 だから、おうめをはじめ無名のみんなが輝く。捨て子の少女すず、切支丹の親を処刑された熊五郎、飲んべえの切支丹漁師、舟の人に思わずあいさつする海藻採りの女さえも、かぐわしい魂の香りをはなつ。
 天草四郎も、奇跡をおこなう聖なるヒーローではない。
 十六歳の彼はきゃしゃな若者。心身ともにもろい。もろいから、他者の悲しみにすぐれて感応する。弱くもろい四郎をみなが支える。支えられ、四郎はつよくなる。
 もっとも弱い者はもっとも強い――物語の奥からそんな声がひびく。

 紀行文「草の道」も魅惑的だ。著者の目には水晶体がない。うっかり太陽をまともに浴びると、しばらく視界が真紅に染まるという。
 そんな弱視で天草の海辺や岬をあるき、四郎と一揆衆の生きた風景を想い、資料を探した。それを、地元の篤実な郷土史家たちが助けた。天草を愛する彼らの無私の面構えは、物語のなかの男性像に大いに生かされていよう。
 島原半島から天草にかけての地は、ホテルやテーマパークがならび、リゾート化が進む。受難の血となみだの記憶はうすれてゆく。
 それも生きる術だが真の文化とは、郷土の歴史を正しく伝える意志ではないか、とする著者のことばは、列島の普遍として胸にしみる。


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