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今日の金融のありようを根本から捉え直す!

学芸総合誌・季刊
 (KAN)
【歴史・環境・文明】
Vol.27

[特集]
誰のための金融か

2006年11月刊
菊大判 328頁 3360円
ISBN4-89434-542-0
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[特集]誰のための金融か 


〈インタビュー〉貧困の撲滅とグラミン銀行
ムハマド・ユヌス

グラミン銀行とは何か
大橋正明

中央銀行とは何か 【市場経済の守護者】
若田部昌澄

貨幣の過剰という根本問題 【世界を攪乱する世界資金資本】
栗本慎一郎

貨幣の両義性・主権性と銀行の特殊性
坂口明義

中世ヨーロッパにおける銀行の誕生
J・ファヴィエ

イスラーム金融の位置
黒田美代子

中世日本の互助金融【室町幕府の訴訟記録にみえる頼母子】
清水克行

近現代フランスにおける経済発展と銀行組織
アラン・プレシ

明治期日本の商社を支えた国策銀行
石井寛治

銀行―企業関係の戦後史
吉松崇

郵政民営化とは何か
原田泰

銀行優位か証券優位か
【金融システムをめぐる政策レジーム転換】
安達誠司

〈インタビュー〉金融とはどうあるべきか
【信用の多様性と多層性】
松原隆一郎

金融の日本型レギュラシオンを求めて【アメリカ・モデル批判】
井上泰夫

中小企業向け金融の「世にも不思議な話」
東谷暁

十字砲火を浴びる消費者金融 【法改正論議の批判的検討】
晝間文彦

市場と道徳
杉原思啓

〈シンポジウム〉 いのちを纏う――色の思想/きものの思想
志村ふくみ+西川千麗+川勝平太

ノーベル文学賞受賞!
オルハン・パムク氏、最新インタビュー



《新リレー連載》

●石牟礼道子の世界
 1 小さな生活の形を継ぐ
三砂ちづる

《連載》

●金時鐘の詩
 蒼い空の芯で
金時鐘


●往復書簡 多田富雄-石牟礼道子
 〈第三信〉老人が生き延びる覚悟
多田富雄→石牟礼道子


●科学から空想へ――フーリエとその精神的系譜
 3 地球の生涯をめぐって――『四運動の理論』(二)
石井洋二郎


●日本語で思考するということ――日本語によってつくられた思想家たち
 3 「は」と「格助詞」との境界画定へ
浅利誠

●伝承学素描
 3 国魂と祭政
能澤壽彦


《連載》

●榊原英資が世界を読み解く 11
 「大アジア主義」の挫折


●反哲学的読書論 9
 「種」の論理・国家のオントオジー
子安宣邦

  巻頭短歌 鶴見和子  巻末俳句 石牟礼道子

【藤原書店PR誌『機』2006年11月号より】

「銀行」とは何か


  企業と同時に誕生した金融
 現在存在する「金融」は、「企業」の出現と同時に出現したものだと思います。
 企業は、設備投資を行い、正社員を雇うため、事業の初めからある程度お金がかかってしまう。アイデアだけは持っている、しかし初期投資が必要というときに、こうした企業に融資する金融の役割が求められたわけです。とくに産業革命以降、起業家が出現し、経済の担い手、供給側の中心になる中で、金融のありようもかなり変質しました。
 けれども、新商品については、どう市場評価されるのか金を貸す側も専門家ではないからよくわからない。ここに貸す側と借りる側の間にリスクの差が生じます。企業が新商品をつくるような場合は、その商品の評価はとくに難しい。こうしたところでいかにお金を貸したり借りたりするかが問題になります。
株式市場と銀行システムの違い
 最終的に貸せる側と借りたい側がうまくマッチングすればよいのですが、このマッチングがなかなか難しいのです。戦後日本においては、基本的に銀行を中心にマッチングのためのシステムが組織化されました。証券市場もありましたが、それは銀行のシステムとは切り離されていた。
 証券市場で株を発行してお金を調達する場合は、企業の抱えるリスクをすべて貸す側に押しつける恰好になる。最終的な貸し手がリスクを負担できるだけの情報力や分析力を所持していることが、株式市場が成立するための前提となります。だからこそヨーロッパでは、プロしか株式市場に入れない。そうした制限を外してしまったのがアメリカです。「自己責任」などと言って、全くわからないことについてギャンブルをさせて、失敗したらリスクを庶民に押しつける。
 リスクの高い案件を処理するために専門家だけでやりとりをしようというのが、本来の株式市場です。ここにはお金の貸し手と借り手の間に立って調整するようなブローカーやリサーチャーが存在し、最終的な貸し手は、彼らからかなりの情報を得る。時に「インサイダー情報」に限りなく近いものだったりする。
金融自由化の帰結
 これまで長い間、証券市場が特殊な空間として分離され、プロ以外は入れなかったのも、それだけこの手のギャンブルはリスクがあまりに高過ぎるからです。お金というのは、もう少しよく分かるものに対して貸すべきもので、こうしたギャンブルはまともなお金の運用ではないというモラルが、国民の側にも政府の側にも存在してきました。ですから証券市場は広く開放するようなものではないと、手数料なども高いまま放置されていた。一般の人々が証券市場に参加するようになった決定的なきっかけは、手数料が下がったということだったと思います。
こうした観点から見れば、現在のような金融市場の自由化は過剰と言うべきです。素人が参加すればするほど、儲ける人がいる。儲けるのは基本的にプロです。いち早く情報を得て、いち早く儲けて逃げる。全体として、情報を持たないような人が食い物にされるようなシステムになっている。プロは、企業について見誤らないのではなく、何よりも素人の投資家の行動に関して見誤らない。彼らは素人の投資家から儲けているのです。これまで長い間、証券市場が特殊な空間として分離され、プロ以外は入れなかったのも、それだけこの手のギャンブルはリスクがあまりに高過ぎるからです。お金というのは、もう少しよく分かるものに対して貸すべきもので、こうしたギャンブルはまともなお金の運用ではないというモラルが、国民の側にも政府の側にも存在してきました。ですから証券市場は広く開放するようなものではないと、手数料なども高いまま放置されていた。一般の人々が証券市場に参加するようになった決定的なきっかけは、手数料が下がったということだったと思います。
そうした株式市場以上に、これまで銀行システムの方が企業が置かれていた立場にある程度フィットしていたのは、企業自身もある程度リスクをとるべきだという意識があったからだと思われます。一般の人々から広く安定的に集めたお金を企業に貸す際、借り手の企業側も、自ら抱えるリスクをある程度「担保」という形で引き受け、固定的な金利をとられるのが、銀行というシステムなのです。
 かしそうしたシステムがうまく機能したのは、それなりに経済成長率が高かった間で、現在のように成長率が低くなればうまく機能しないという問題も出てきます。全体として収益率が下がっているときに、借り手の企業が元々リスクを負っている上に、さらに「担保」までとられてやっていけるのかという問題です。そこで金融市場の自由化という議論が、借り手企業の負担を少しでも軽減しようという発想から出てきました。
 そもそも金融業において収益率は、実際どの程度あるものなのか、あるべきなのか。特段優れた情報を持っていないとすれば、収益率は平均でしか分からないし、原理的にそれは経済全体の成長率と同じになるはずです。その意味で日本の株式市場は、トータルとしてはすでに儲からない構造になっている。儲かるのは、インドや中国など全体として成長しそうな国の市場です。日本国内の株で儲けようというのが土台無理な話である。
銀行改革のあり方の問題
 何とか企業の負担を軽減しようと金融の自由化が進められてきたわけですが、それも現状では、全体の構図としては、本来、金融のプロがもう少しリスクを負うべきなのに、そうしたリスクを一般庶民が負わされる恰好になっている。そして銀行の方は、リスク負担や責任の所在が曖昧にされたまま、いつの間にか空前の収益を上げている。一般庶民からすれば、所持するお金を元に経済成長率くらいの収益は欲しいと考えるものでしょう。ところが貯蓄しても金利は低く、儲けようとすればリスクが相当かかる。それに比べて銀行はほとんどリスクを負っていない、それでいて担保をとっている、と頭に来てしまう。
 結局、そういう銀行も行き詰まりを見せ、改革が不可避の課題となってきたのですが、その改革も、銀行にリスクを負わせる方向には向かわず、「金融の再編」や「大銀行の合併」で問題の解決が図られた。つまりこの間、大銀行は、経営や融資のあり方を自ら問い直すことなく、合併させられるかどうかだけを気にしてやってきた。不良債権問題も、公的資金の投入によって解決される。これでは、銀行は全くリスクを負わず、責任もとっていないのではないか、と一般庶民が不快感を覚えるのも当然でしょう。
金融機関は半ば公的な存在
 では公的資金の導入は間違っていたかというと、そうではない。結果論から言えば、成功した。一銀行の倒産が全体としての金融危機につながる危険性があるからです。相互に連鎖するのが信用のメカニズムですから、そのメカニズムの全体をやはり何らかの形で守らざるを得なかった。
 ではなぜ銀行は責任をとらないで済むのか。銀行の場合、一銀行の倒産が金融システム全体の問題になり得る。その意味で、金融機関は、本来からして半ば公的な存在であるのです。
(まつばら・りゅういちろう/東京大学教授)
※全文は『環』27号に掲載(構成・編集部)

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