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いま、「世界の中の日本」の進むべき道は?

学芸総合誌・季刊
 (KAN)
【歴史・環境・文明】
Vol.18


[特集]「帝国以後」
    と日本の選択

2004年7月刊
菊大判 384頁 2940円
ISBN4-89434-399-X
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 アメリカによるイラク戦争も一年を経過し、ますます泥沼化を呈してきている。小社は、昨春、フランスの人類学者にして歴史家、エマニュエル・トッド氏による『帝国以後――アメリカ・システムの崩壊』を刊行した。原著は刊行から一年半を経たが、世界中でも27ヶ国語以上に翻訳され世界的ベストセラーとなっている。現在のイラク戦争はヴェトナム戦争の二の舞という声もあり、まさに追い詰められてきているアメリカの現在を考える上でも、本書の重要性は否応なく増してきている。  日本でも昨春の邦訳刊行以来、著者の来日も含めて多大な反響を獲得してきたが、イラク問題、東アジア情勢など、アメリカとの関係の中で日本の進路が深い混迷に陥っている今、日本人が本書をどう読むかが、ますます強く問われている。アメリカからの「自立」を促す本書が、ドイツでとりわけ大きな反響を得たということを、我々はもっと真摯に受け止めなければなるまい。  この特集では、日本及び世界の一線の識者にご寄稿いただき、「帝国以後」の世界において、今我々がいかに対処すべきかを問うてみたいと考えている。

●アメリカは現実を直視できない「イデオロギー国家」にすぎない!

目標を失ったアメリカ

エマニュエル・トッド 最新インタビュー
(聞き手=I・フランドロワ/訳=荻野文隆)

 米軍による市民への攻撃や虐待、イラク国民の反発、スペインの撤退、米国内の危機……アメリカはすでに敗北している。これ以上の米軍の駐留は、ベトナム戦争以上の最悪の事態をもたらす!

〈来日記念シンポジウム〉
『帝国以後』と日本の選択
  ――対米従属からの脱却は可能か?

エマニュエル・トッド榊原英資小倉和夫
(司会)中馬清福
(通訳・訳=三浦信孝)

 イラク問題ではアメリカに全面協力を続け、東アジアではアメリカの「核の傘」に依存し続ける日本。 アメリカからの自立を強く促す『帝国以後』を日本はどう受け止めるか?


■トッド、日本で語る

アメリカを問い直す
(『朝日』2004・2・4/聞き手=中川謙)

軍事攻勢は「弱さ」の証し
『毎日』2004・2・4/聞き手=佐藤由紀・岸俊光)

「米国一辺倒」への警告
(『読売』2004・1・26/聞き手=泉田友紀)

イラク戦争、米国破綻のきっかけに
(『東京・中日』2004・2・5/聞き手=三品信)

米国が今やリスクに
(「共同通信」2004・1・16/聞き手=軍司泰史)



■いま『帝国以後』から何を読みとるか

「核武装」か「米の保護領」か?
飯塚正人

なぜアメリカは戦争をしたか
池澤夏樹

グローバリズムへの徹底抗戦
井尻千男

「アメリカ帝国」という虚妄 【ヨーロッパからの反撃】
佐伯啓思

残照の観察者として
高成田享

アメリカ批判から保守的英知へ
西部 邁

ヨーロッパ地政圏とアジア地域システム
濱下武志

『帝国以後』への私注
三木 亘

アメリカ・システムの興隆・崩壊の同時性について
武者小路公秀

地政学(Geopolitics)と人口政治学(Demopolitics)
脇村孝平


●イラク戦争前夜、欧米の一級の知識人が闘わせた激論の記録!

21世紀は、アメリカの世紀となるか?

E・トッドI・ウォーラーステインJ‐P・フィトゥーシI・ラモネ
(司会)R・ドゥブレ
(訳・解題=石崎晴己)

 トッド、ウォーラーステインというまったく異なる専門領域の第一人者が、異口同音に指摘した、「衰退するアメリカ」。

「帝国以後」の国際ガバナンス【いかなる国連改革が必要か?】
西川 潤

帝国以後の日本の選択
猪口 孝

世界金融市場からみたイラク戦争
 
水田正史


小特集・『帝国以後』は世界でどう読まれたか?

アメリカ
『ニューヨーカー』/『ザ・ネイション』/『ニューヨークタイムズ・ブックレビュー』/『パブリッシャーズ・ウィークリー』/『ブックリスト』
イギリス

『ニュー・ステーツマン』/『ガーディアン』/『インディペンデント』

メキシコ
『グロバリサシヨーン』(インタビュー)/『ラ・ホルナーダ・セマナル』(インタビュー)

フランス
『ル・フィガロ・リテレール』(J‐F・ルヴェルとの対談)/『ル・ポワン』/『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』/『ラ・クロワ』/『リベラシヨン』

ドイツ
『ツァイト』/『ツァイト』(インタビュー)

イタリア
『イル・マニフェスト』(インタビュー)

ロシア
『グローバル政治におけるロシア』

エジプト
『アル=グムフーリーヤ』/『アフバール・アル=ヤウム』

中 国
『世界知識』

韓 国
『デジタル朝鮮日報』/『ハンギョレ新聞』

日 本
『毎日新聞』(養老孟司)/『日本経済新聞』(山内昌之)/『日経ビジネス』(山本茂)/『読売新聞』(白石隆)/『産経新聞』(越智道雄)/『週刊東洋経済』(奥村宏

鶴見和子の言いたい放題 その2

「反日的分子」と「非国民」

 脳出血で倒れ半身麻痺となって8年、病と共に生きる立場から、今の世にどうしても言っておきたいことを語る!

榊原英資が世界を読み解く 第2回

アメリカの分裂

 大統領選を控えた、アメリカが国内に抱える深刻な危機!

救いとしての本物の美
―― 新作能「不知火」奉納に託される思い ――
石牟礼道子+大岡 信

「苦海浄土」から「不知火」へ。“歴史的事件”としての新作能・水俣奉納公演。

〈寄稿論文〉
新資料に見る「満鉄調査部事件」
小林英夫

戦後60年、中国の地に埋もれていた極秘資料を初めて公開!

〈編集長インタビュー〉
ブルデューを継承する
パトリック・シャンパーニュ(訳=宮島喬)

ブルデューに学んだ社会学の真髄を結晶させた、卓越の「世論」研究!

《連載》

●河上肇の「詩」と「書」 4
 人事代謝有り 往来古今を成す
一海知義+魚住和晃
京大を追放された河上が、扇面いっぱいに描いた書とは。

●唐木順三という存在 7
 批評と思想の間 【小林秀雄と唐木順三】
粕谷一希
反時代的思想家が生涯を賭けて完成させた「無常の形而上学」。

●〈往復書簡〉吉増剛造―高銀 8
 人間としての風景
高銀 (訳=崔世卿)

●徳富蘇峰宛書簡 17
  正力松太郎(下) 戦後混乱期の蘇峰と新聞人
高野静子


  巻頭短歌 鶴見和子  巻末俳句 石牟礼道子


【書評・紹介】

  • 8/30 朝日新聞 夕刊 「私が選んだ3点」欄
  • 8/18 アサヒ・コム 「ニュースの本棚」欄

  • 【藤原書店PR誌『機』2004年7月号より】

    目標を失ったアメリカ
    ―― エマニュエル・トッド氏、最新インタビュー ――

    理性的すぎた『帝国以後』
    【最近の状況の展開に照らして、ご自身の著書をどのように評価されますか。】
     今、私がこの自分自身の本(『帝国以後』)に対して抱く評価は、驚きに充ちています。なぜなら未来の予測という意味で、イラク情勢の泥沼化やアメリカの軍事的な潜在力についての的確な評価があるからです。今では、アメリカの物質的、倫理的、イデオロギー的資源が極めて限界のあるものであり、それがアメリカをイラクで窮地に追い込んでいることを人々は理解しつつあります。

    【もしこの本を今書くとすれば、どの部分を変更されますか。】
     アメリカの言説のなかの非理性的なものの問題に関連することを追加するでしょう。この本はアメリカの潜在力についての非常に理性的で冷静な分析です。アメリカの経済的な潜在力とそれなりの有用性をもつ軍事的な潜在力に対する評価を下方修正する分析となっていますが、そのモデルは非常に理性的です。演劇的小規模軍事行動主義に至るまでが弱体化したという感情に対する理性的な反応として描かれています。これに幾分かニュアンスをつけ、照準の修正を加えるとすれば、アメリカの政治とイデオロギー的な態度がもつ非理性的でほとんど錯乱的な次元そのものをもっと検証することになるでしょう。

    【宗教的な言説についてはいかがですか。】
     悪の枢軸という問題提起はその類といえます。個人的なレベルであれ、国際的なレベルであれ、ひとつの主体があらゆるところに悪を見出し、糾弾し始めたとします。それはその主体みずからについて何かを語っていることを意味します。外界は難解なものであり、個人的であれ、集団的であれ、世界の他者たちの意図を理解するのは困難なことなのです。そこでまず出てくる反応が、投影するという作業です。自分のなかに在るものを他者に想定する。ブッシュの言説が我々に語っていることは、悪とはアメリカの問題であるということです。ある意味で、私はブッシュの言っていることをだんだん真面目に取るようになってきています。つまりあれは何かを隠すための装いではないし、世界について語っているものでもないと認識するようになったということです。私はアメリカ社会の内側の混乱とその現われをあまりに過小評価していました。「ブッシュ流」の悪の概念化はやはりそのような状況と関係しています。
     私は経済において重要なのは、国際市場で高い価値をもった先端技術の製品を生産することだと考えています。アメリカの貿易収支は、今日の先端技術の分野を含めて赤字であり、従ってアメリカは言われているほどには金持ちでも、強力でもないのです。私が過小評価していたこととして、アメリカは非常にイデオロギー的な国であり、市場や株式の美徳への一種の「素朴な信仰」があり、いくつもの企業が粉飾決算を行っていたと知らされると、現実を否認しようとする病的なプロセスを生み出すことになる道徳的な危機を引き起こします。このことは、私の本のなかでは扱われていませんが、これこそが追加すべきものでしょう。このことを補足し、分析をその先まで進めたならば、国際関係をいっそう不安な色合いのもとで認識することになります。アメリカの経済の虚偽性や欠如欠落等については、アメリカ社会に破壊的に作用する道徳的な危機を作り出すものとしては、十分に、あるいは全くと言っていいほど分析がなされていません。

    もはや目標を失ったアメリカ
    【アメリカが失速しつつあるとしても、この現象は安心できないのではないですか。】
     その通りです。アメリカについての私の分析は、この国の現実の力を測定するものですが、世界に対する依存状態を考慮に入れると、アメリカ人たちが無意識的な関心によって演劇的小規模軍事行動主義へと導かれていくとともに、世界にとって必要な存在であり、今でも最強の国であるということを見せつけるために激しく動き回ることになるとも指摘しましたが、それでもまだこれは理性的なモデルに沿ったものなのです。演劇的小規模軍事行動主義が、その経済的、金融的な依存ゆえに世界の中心であると見なされようとするアメリカの問題への無意識的ではあっても理性的な解答だとしても、ドイツほどに重要な国がフランスと協調しながら軍事介入に反対をとなえていた以上、仮にアメリカが完璧に理性的なものによって動いていたとしたならば、譲歩したはずです。ドイツがアメリカ帝国のふたつの柱のひとつであり、日本が残る一方であるなかで、大きな工業力をもつドイツが「ノン」といったことによって、イラク戦争はヨーロッパ全体を前にして分裂の要素となりつつあった。イラク戦争はヨーロッパ人とアメリカ人の分裂を深めるしかないものとなっていたゆえに、アメリカは譲歩すべきだったのです。それが、ある時点で非常にはっきりと現実からの逸脱と否認の現象によって突き動かされたのです。アメリカの多くの論説委員たちの観点によると、面子を失わないためだったと言います。しかしながら、軍の状況と装備の状態についての報告書をちょっと読み、アラブ世界やイラクについての最低限の理解があったならば、起こるべきことが書きしるされていることを知ることができたのです。現在イラクで起こっていることは、起こるべくして起こったのです。

    【アメリカの場合、侵略戦争を起こしただけではなく、その国への駐留に固執しているわけですね】
     アメリカはイラク戦争を始めるべきではなかったように、現在においてはイラクから撤退すべきところに来ています。もう終わったのであり、彼らは敗北したのだということを理解すべきところです。それが、撤退するどころか、執拗にナショナリスティックな言説が蔓延しています。そしてとりわけ、いま確認できることは、アメリカ政府とイラクに進駐した軍隊が、戦略的な目標を失ったことによって、非常に不安を掻き立てるものとなっていることです。これは敗北した戦争なのです、なぜならアメリカは遂行するための手段をもたないからです。アメリカ軍は――大いなる驚きですが――小さすぎるのです。殆んど識字化が終了し、異なる文化をもち、独立への意欲が強く、自分たちの天然資源を奪い取られることを好まない国を13万の兵士によって支配下におくことは不可能です。

    暴力の自己目的化
     私が非常に心配しているのは、戦争というものが悪を教え込む方法だという点です。平和時には、国際的な力関係は、定義上、制御され理性的なところにとどまっています。ところが人類の歴史を見れば解ることですが、戦争を理想とはしない非常に発達した国々の間で戦争が勃発することがあります。時折力の均衡のメカニズムが狂いだす現象が起こり、そこで戦争へ突入することになります。全ての戦争への突入には、最初に誰かの計算の過ちがあったと想定できます。それはそれと特定することが簡単ではないものなのですが、戦争が本当に危険なものであるのは、なによりも論理の変更をうみだし、人間がもつ古い攻撃的な反応や暴力などへ徐々に転落させていくからです。そうして暴力の激化という現象――悪の教育法としての戦争――が発生し、暴力のなかへ引きずり込まれていき、常により過激な段階へと向かいます。ですから危険なのは、一種の暴力のなかでの逆上です。暴力がそれ自体目的と化して、それに嵌まっていくのです。今の時点で感じるのは、一種の暴力の力学に陥っているアメリカ軍によって感化されてしまうのではないかという不安です。
     ドイツの「ノン」は、戦争に突入する時点での最初の重要な転回点でした。いくつかの国がこの戦争に引きずり込まれました。本当に心配していたことは、最初の死者、最初の犠牲者が出た後に、悪の教授法が人々を感化し、アメリカの暴力のサイクルのなかに人々を巻き込んでいき、現在のアメリカの悪夢のなかに引きずり込んでいくのではないかということでした。スペイン軍の撤退はこの意味ですばらしい出来事なのです。これはひとつの重要な転回点です。スペイン人たちは譲歩しませんでした、そして他の人々にひとつの目安を示したのです。ある意味では、誰も譲歩しなかったのです。
    現在、現地で見境なく人を殺しているのはアメリカ軍だということは実に明らかです。今ではイラクには大量破壊兵器がなかったことが解ったわけです。アメリカとトニー・ブレアにとっては複雑な状況です。しかしはっきりしていることは、ファルージャやナジャフなどその他の地域でアメリカが非常に残酷なやり方で一般市民を爆撃したために、実際のところフセインの裁判が非常に困難になったことがまだ理解されていないということです。なぜならフセインが糾弾されていたのもこのことだったからです。アメリカ人たちが急速にフセインと同じように振る舞い、イラクの人々を拷問にかけていることで、フセインをどのように扱えばよいのか判らなくなってきました。

    暴力の自己目的化
    【この戦争をどのように定義されますか。】
     これは、植民地戦争がもう許されなくなった時代における植民地戦争の試みです。イラクでは人口の大部分が識字化されており、知的能力、国民的・社会的意識がともに再植民地化の可能性を拒否する一定の水準にあります。このような文脈では、現地のアメリカ軍は、要員が十分ではなく、装備が万全でもない、さらには人々を公正に扱い、賢明さや平和的な態度で行動するための道徳的かつ知的な能力ももっていないのです。したがって、アメリカ軍が使用できるのは戦車という、第三世界のあらゆる独裁体制に見られる古典的な軍事政権が使う道具なのです。このことは見逃されています。技術的に言えば、イラクの体制は質的にはそれほど変わっていないのです、やはり戦車がものをいうのですから。しかし実際のところ、力の大部分を戦車に頼り要員も十分でない軍隊が、人口の99.99%が敵対するなかでどのようにやれるのかは、歴史的に見ても全く経験のないことなのです。軍事的には興味深いいくつもの要素がありますが、それらをより興味深くしているのは、イラクで蜂起している人々がかなりの水準の軍事的な能力を持っているとともに、このような状況で(しかも住民のほとんどが武装しているという前代未聞の状況なのです。全員が武器を持っている国を植民地化しようとするのですから)戦車の最大の弱点が燃料補給にあることを外部からのいっさいの助言に頼ることなくイラクの人々が理解しているように見えることです。99.99%の住民が敵対し、燃料輸送車を破壊するには十分有効な武器が大量に所持されている国のなかで、13万の軍隊が実際どのくらいの危険にさらされているのかは大いに知りたいところです。誰もが「ベトナムとは違う」と言います。確かにそうです。しかし誰もベトナムよりも悪くなる可能性を想定していないように見えるのはどうしたことでしょうか。現在の死者の数からいえば、ベトナムの規模ではありません。しかし南ベトナムでは人口の一部はアメリカを支持していましたし、アメリカを支持する政権もまだ存在していました。南ベトナム軍と50万のアメリカ軍もいたのです。またそれはアメリカがはるかに金持ちだった時代のことで、より多くの予算を使うことができたのです。したがって潜在的には、状況はベトナムよりも悪いと考え得るほどなのです。もちろんどうなるかは判りません、歴史は非常にはやく進んでいます。それゆえに考えてみる必要があるのです。

    (聞き手=I・フランドロワ/荻野文隆訳
    (2004年4月28日/於・パリ)
    ※全文は『環』18号に収録(構成・編集部)


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