2022年02月03日

現状を予見したかのような王力雄『セレモニー』緊急重版――コロナ禍の北京オリンピックはどのような結末を迎えるのか?

先日、『日本経済新聞』の第一面のコラム「春秋」で王力雄氏の『セレモニー』「現状を予見したかのような恐るべき小説」として紹介されました。

世界では新型コロナウイルス(COVID-19)のオミクロン株が猛威を振るい続けていますが、そんな中、北京では冬季オリンピックが開幕となります。

確かにこの状況は、『セレモニー』で叙述されているプロットに酷似しており、ここまで来ると、そこで描かれている共産党指導者の姿は、よりリアリティをもって読者の眼前に迫ってくるはずです。

以前にも紹介させて頂きましたが、作者の王力雄氏は本作の「あとがき」で以下のように述べています。

テクノロジーを使っての民主主義の探求は、私たちがいままさに為さなければならないことであり、また為すことができることである。しかも、それは独裁の外部にあってのみ為しうることでもある。テクノロジーによる民主主義をたえず成長させていき、ついにはテクノロジーによる独裁に取って代わってゆく。それは遥かな道のりであり大いなる企てでもある。そこで、まず最初の一歩としてだが、テクノロジーによる民主主義とは何かを理解する必要があるのではなかろうか。ではそれは、どこから始めればよいのか、いかにして取りかかるべきか。

この王力雄氏の問いかけに対する明確な解答は、まだどこにも存在しませんが、それを考えることは、今を生きるすべての人々に課せられた喫緊の課題である、ということができるのではないでしょうか?

現実の中国では、2010年から治安維持費が国防費を上回る規模で投じられており、ハイテクを駆使し、より高度な管理社会・監視社会化を推し進めてきました。

世界で初めて、国家規模で、治安対策へのAIの本格的利用を表明し、AIにネット検閲を行わせ、さらに多数の監視カメラを設置し、官僚や刑務所の囚人にはじまり、果てはすべての歩行者に至るまで監視させているようです。

また、『セレモニー』が着目した「靴」ではなく、脳波と感情を「ヘルメット」や「帽子」に埋め込んだセンサーで感知し、AIで監視するシステムの開発を推進しているようです。

このような国家による監視テクノロジーの占有と濫用は、恐るべきディストピアを想像させますが、それは既に虚構の話ではなく、現実のものとしてそこに存在しています。

小社では、このタイミングで本書『セレモニー』を緊急重版(2月10日を予定)いたします。

本書では、上に示すような困難な問題に照明が当てられていますが、そのような問題はさておいても、本書は、第一級のサスペンスが味わえる小説(ポリティカル・サイエンス・フィクション)であり、手に汗握る展開は、読者を捉えて離さないのではないか、と思います。

未読の方は、この機会にぜひ本書『セレモニー』をお手にとってみてください。