2020年04月01日

人類史における感染症との闘いの記録を読む

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が世界中で続く中、2006年に小社で刊行した速水融氏の『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ――人類とウイルスの第一次世界戦争』がご好評を頂いています。

『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ――人類とウイルスの第一次世界戦争』の4月27日出来分の増刷は出荷済みで、現在、小社サイトでの直接注文はお受けできませんが、小売書店の店頭および通販サイトでは、在庫有りのお店がございますので、そちらでご注文いただければ幸いです。
次回の増刷は5月11日出来を予定しています。ご不便をおかけし誠に申し訳ございません。

▶本書刊行時に要旨をまとめた『機』の紹介記事はこちら

小社では、本書以外にも、人類史における感染症との闘いの記録を描いた歴史書等を刊行させて頂いています。ここでは、それらの書籍をご紹介申し上げます。

■岡田晴恵編『〈増補新版〉強毒性新型インフルエンザの脅威』

まず、その速水融氏関連の書籍です。こちらは2009年に増補新版として出版したものですが、現在数多く、マスコミに登場されている感染免疫学、公衆衛生学を専門とする白鴎大学教育学部の岡田晴恵教授が編集されたものです。本書の巻頭には、『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ――人類とウイルスの第一次世界戦争』について、著者の速水融氏と北里大学名誉教授で医学史の専門家である立川昭二氏とが語りあった対談「スペイン・インフルエンザの教訓」が収められています。

また、本書は岡田氏とWHOのインフルエンザセンター長(当時)の田代眞人氏が『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ――人類とウイルスの第一次世界戦争』を読み解いたコメンタールにもなっています。

▶本書刊行時に要旨をまとめた『機』の紹介記事はこちら

■ピエール・ダルモン著 寺田光德・田川光照訳『人と細菌 17-20世紀』

2005年(原書は1999年)に出版した、フランス国立科学研究センター(CNRS)の主任研究員ピエール・ダルモンの野心的な大著で、顕微鏡観察から細菌学の確立に至る200年の前史、公衆衛生への適用をめぐる150年の「正史」を、人間の心性から都市計画までを視野に収めて論じています。

▶本書刊行時に要旨をまとめた『機』の紹介記事はこちら

■C・エルズリッシュ、J・ピエレ著 小倉孝誠訳『〈病人〉の誕生』

本書は1992年(原書は1991年)に出版したもので、近代社会において〈病人〉と呼ばれる人間がいかに形成されたのかを、文学作品・日記・書簡等の博捜から過去の病人等、300人を超えるインタビューを通して、社会史・心性史・身体論・社会学の交点から総合的に分析しています。著者の二人は、当時いずれもCNRS所属の研究員(C・エルズリッシュは研究部長)でした。

■C・ケテル著 寺田光德訳『梅毒の歴史』とM・D・グルメク著 中島ひかる・中山健夫訳『エイズの歴史』

   

『梅毒の歴史』は1996年(原書は1986年)、『エイズの歴史』は1993年(原書は1990年)に出版したものです。著者の二人はやはりCNRS系の医学史の研究者で、前者は、梅毒の五百年史が、現在我々がエイズに対して持つ恐怖と問題の構造を先どりしていたことを実証的に明かしています。後者は、ウイルス学・感染学・免疫学ほか、最新の科学的成果を駆使して総合的に迫った初のエイズに関する「歴史」書です。

■多田富雄著『多田富雄コレクション 第1巻』

感染症とのたたかいにおいて必ず注目される「免疫」とは、そもそも何なのでしょうか。名著『免疫の意味論』をはじめとする著作を残した免疫学の第一人者、多田富雄さんのコレクションの第1巻では、体内に侵入した「異物」を排除するための「免疫」というシステムの基本を知ることから、「自己とは何か」という深い問いへと導かれます。

■本庶佑著『生命科学の未来 がん免疫治療と獲得免疫』

一昨年、ノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑氏が語った言葉を集めた本です。本庶氏の“PD-1抗体発見”という業績も、「獲得免疫」という驚くべき人の免疫機能の上に成し遂げられたものです。本書では、免疫学との出会い、生物が免疫の多様化を実現する仕組みを解明した画期的研究、ノーベル賞受賞をもたらした抗体の発見に至る軌跡、そして、生命科学が世界的に注目されているなかでの基礎研究への投資の重要性などが語っています。

■アラン・コルバン著 山田登世子・鹿島茂訳『においの歴史〈新版〉 嗅覚と社会的想像力』

小社ではお馴染みのアラン・コルバンですが、コルバンは本書で、悪臭を嫌悪し、芳香を愛でるという現代人に自明の感受性が、いつ、どこで誕生したのか? という問いを立て、18世紀西欧の歴史の中で発生した「嗅覚革命」を辿り、公衆衛生学の誕生と悪臭退治の起源を浮彫りにしています。

■『〈決定版〉正伝 後藤新平1 医者時代1857-93』と『〈決定版〉正伝 後藤新平2 衛生局長時代1892-98』

 

そして、わが国における公衆衛生を論じるのに不可欠なのが後藤新平です。『〈決定版〉正伝 後藤新平』は全8巻の構成ですが、この1巻と2巻では、若き後藤新平が描かれています。医師となった新平は、軍医の石黒忠悳に認められながら、軍医ではなく内務省衛生局の官吏となり、衛生局長まで進みます。その間、ドイツへの私費留学等を通じて、当時最先端の公衆衛生学に触れ、それを深く身につけます。しかし、その後新平は「相馬事件」への関与で蹉跌を味わいます。事件は結局無罪となりますが、衛生局長は解任となり、友人たちも一旦は新平の周囲から去って行きます。そこに石黒が再び手を差し伸べ、児玉源太郎に紹介され、日清戦争後の未曽有の「検疫事業」へ取り組むことになります。「スペイン・インフルエンザ」ではありませんが、この後藤の検疫事業についても、未だ決定版といえる研究は存在しません。そこには、今回の新型コロナウイルスに対して、私たちが考え、取り組むべき無数のヒントが隠されていると思われますが、それはまだ読み解かれるのを待っているのです。

■手塚洋輔著『戦後行政の構造とディレンマ 予防接種行政の変遷』

感染症は新型コロナウイルスだけではありません。毎年、身近な感染症が多くの方の健康を危険にさらしていますが、その対策としてのワクチン接種は、強い反対を招く場合もあり、ワクチン行政は迷走を余儀なくされます。本書は、「新型」だけでなく、さまざまな感染症対策に国家や自治体はどのように責任を持ちうるのかを考えさせる、刺激的な一冊です。

■槇 佐知子著『『医心方』事始 日本最古の医学全書』

国宝『医心方』は、「世界の記憶」に既に登録されている中国最古の漢方の聖典『黄帝内経』、朝鮮王朝時代の名医・許浚による『東医宝鑑』にならぶ、日本最古の医学全書です。本書は、歴史の中に埋もれてきた『医心方』の魅力を、奇怪な文字のからくりを解き明かして全訳精解をなしとげた著者が余すところなく紹介する本です。【4月13日、品切れとなりました】

■王力雄著 金谷譲訳『セレモニー』

最後に、小説(フィクション)になりますが、「新型コロナ」が中国で大きな問題になったとき真っ先に連想したのは、中国本国で公刊を禁じられた反体制作家によるこの問題作でした。中国発の新型インフルエンザが大きな問題となり、WHOを通じた国際社会の介入、最新テクノロジーによる徹底した国民の監視が行われる……という本書の筋書きは、現在起きていることと二重写しになります。

なお、ここにご紹介申し上げた書籍は、いずれも(発刊年次の古いものほど)在庫僅少となっていますので、お求めの方はお早めのご購入をお勧めいたします。ご購入の際は、小社のストアサイト(当該書籍の書影からのリンク先)をご利用ください。

小社では、これ以外にも「病・医療」関係の書籍を多数刊行していますので、ご関心をお持ちの方は、是非こちらもご覧ください。

▶藤原書店がお届けする「病・医療」関連書

 

4/20追記:藤原書店とは直接関係ありませんが、経済ジャーナリスト・作家の出町譲氏が、4月15日から、インターネット・メディア「Japan In-Depth」で「人類と感染症」と題する連載を始めており、その中で速水融氏の『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』に言及しています。

第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回