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「作家」と「文学」は、いかにして誕生したか?

作家の誕生


アラン・ヴィアラ
塩川徹也監訳
辻部大介ほか訳

Now Printing


アカデミーの創設、作品流通、著作権の確立、職業作家の登場、作家番付などが慣例化した17世紀フランスにおける「文学」という制度の成立を初めて捉えた名著。今日における「文学」や「作家」のあり方までをも再考させる、メディア論、出版論、文学論の古典的必読書!

A5上製 432頁 5775円
(2005年7月刊)
◇4-89434-461-0
Naissance de l'ecrivain

【書評・紹介】

  • 10/2 読売新聞 「よみうり堂」欄
  • 10/30 信濃毎日新聞 「書評」欄

  • 【藤原書店PR誌『機』2005年7・8月号より】

    商業出版と職業作家の誕生

    塩川徹也・辻部大介

     本書『作家の誕生』の著者アラン・ヴィアラは、1947年生まれ。現在、パリ第三大学およびオクスフォード大学でフランス文学の教授を務め、精力的に研究・教育活動を行っている。主たる専門領域は十七世紀フランス演劇、特にラシーヌであるが、とりわけP・ブルデューの決定的な影響のもとに、文学という歴史的事象そのものの成立基盤についての真に科学的な認識を打ち立てること、ただしそのさいに個々の文学テクストじたいのありようをあくまで拠り所とすること――その試みを彼はある場所で「ソシオポエティック sociopoetique」と呼んでいる――を自らの課題として、何冊もの刺激的な書物を世に送り出している。

    「戦場」としての文学と作家たちの「戦略」
     『作家の誕生』(原著は1985年刊)は、そのようなヴィアラの探究の出発点に位置し、十七世紀=古典主義時代の文学を題材に、文学史および文化史の通念に根本的な修正を迫った著作である。端的に要約すれば、その主張は、近代文学という制度は十九世紀前半に成立したとする従来のテーゼ(サルトル、ベニシュー)から時計の針を大幅に戻し、十七世紀においてすでにこの制度の原型が作りあげられた、というものだ。
     第一部においては、この原型、すなわち「最初の文学場」の全容が分析される。アカデミー、(有力者が自らの影響力拡大のため恩恵とひきかえに多くの者を配下に抱える慣習行動)とメセナ、出版に関わる法律、黎明期のジャーナリズムとサロンが生みだした新たな読者層といった、この空間を「文学場」たらしめた諸要素、すなわち(文学というもの自体に価値を付与するとともに、個々の作家・作品の評価を担った)諸決定機関のありようとそれらが演じた役割が、順を追って提示されてゆく。この分析を通して、現代のわれわれが古典主義文学の本質と理解している言語上・美学上の傾向(ヴィアラの用語では「純粋主義」)は、じつはこの時代に行われた数々の傾向の一つにすぎず、それが競合する他の傾向との覇権争いに勝利をおさめた結果が、そのまま今日の認識を規定していることが明らかにされる。すでに三百年近く古典としてゆるぎない地位を保ってきた十七世紀文学は、その静的なイメージから解放され、さまざまな力がせめぎあう「戦場」としてのダイナミズムを付与されるのだ。
     第二部は、最初の文学場の構造に即して個々の作家がとった「最初の作家戦略」の分析にあてられる。これは「地道な成功の戦略」「華々しい成功の戦略」に大別され、作家の美学上の選択は作家が標的に定めた機関が求めるものに合致すべくなされているという観点から、(失敗の事例を含めた)二つの戦略のさまざまなタイプが記述される。最後に、「作家」および「文学」という語の外延と内包が史料をもとに検討され、今日の意味における「作家」「文学」が十七世紀にたしかに出現したことが示される。

    十七世紀仏文学への手引
     以上の簡単な紹介からも知られるとおり、まことに挑発的な内容をもつ本書であるが、本書の読みどころはそうした側面にばかりあるのではない。「場」と「戦略」の分析は、何よりも文学テクストを介してなされるのであり、そこで例証として用いられる50名をゆうに超える作家とその作品の解説は、簡潔ながらも、そのおのおのが精彩に富んだ一個の批評たりえている。本書の真の主役は「作家」たち、それもコルネイユ、モリエールやラシーヌと並んで、ヴォワチュール、シャプラン、メズレー、ペリソンといった、フランス文学の専門家以外にはほとんど名前すら知られていないであろう作家たちなのである。本書は歴史の闇に埋もれた多士済々が覇を競った十七世紀フランス文学へのオマージュでもあり、日本の読者にとっては、まだまだ知られることの少ないこの時代の文学へのまたとない手引書ともなってくれることだろう。
    (しおかわ・てつや/東京大学教授)
    (つじべ・だいすけ/福岡大学助教授)

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