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歴史人口学の権威が最重要文献を精選

歴史人口学と家族史


速水融編
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 歴史人口学と家族史の発展に多大に寄与しながら未邦訳の最重要文献を精選。歴史人口学成立期の模索とその革新性を伝えるローゼンタールの論文、ミクロ資料の活用から新境地を開いたアンリの重要論文、「前工業化期北西ヨーロッパ型世帯構造」を発見し、近代化・経済体制と家族構造の関連を示唆するヘイナルの諸論文を始め、この分野のエッセンスと学問としての先進性を初めて提示する必備書。

A5上製 560頁 9240円
2003年11月刊)
◇4-89434-360-6


【書評・紹介】

  • 家族社会学研究 VOL.16 no.1 「文献紹介」欄
  • 1/18  読売新聞 「書評」欄

  • 《目次》

    序文 速水融

    1.人口史から歴史人口学へ
            ―回想の13年:1945年から1958年にかけてのフランス―
    ポール‐アンドレ・ローゼンタール>(速水融訳)

    2.歴史人口学―成果と展望
    斎藤修(中里英樹訳)

    3.人口史における1章としての18世紀以降の
                    ヨーロッパにおける出生力低下
    アンズリー・J・コール(小島宏訳)

    4.ヨーロッパにおける出生制限グループの先駆者
    マッシモ・リヴィ‐バッチ(速水融訳)

    5.乳児死亡率とヨーロッパにおける人口転換
    フランシーヌ・ヴァン・デ・ワラ(黒須里美訳)

    6.人口転換期ヨーロッパでの都市と農村における出生力の差違
    アラン・シャーリン(高橋美由紀訳)

    7.自然出生力に関する若干のデータ
    ルイ・アンリ(木下太志訳)

    8.家族復元法による英国人口史
    E.A.リグリィ&R.S.スコッフィールド(山本千映訳)

    9.工業化以前のイングランドにおける婚姻出生力
       ―ケンブリッジ・グループ
           家族復元プロジェクト研究とその成果による新たな展望―
    クリス・ウィルソン(友部謙一訳)

    10.時代と文化をこえて世帯構造を比較する  
    E.A.ハメル&ピーター・ラスレット(落合恵美子訳)

    11.ヨーロッパ型結婚形態の展望  
    ジョン・ヘイナル(木下太志訳)

    12.前工業化期における二つの世帯形成システム  
    ジョン・ヘイナル(浜野潔訳)

    文献目録 (reference)
    索引

    【藤原書店PR誌『機』2003年11月号より】

    人口と家族の歴史から見える全く新しい歴史イメージ

    人口の歴史と家族の歴史

    速水 融

    歴史人口学の奥深さ

     人口と家族は、社会を構成する二本の支柱だ、とかねがね思っている。人口 といってももちろん単に人の数という意味ではなく、男女の比率、年齢別構造 、配偶率といった静態統計に表わすことのできる「状態」と、出生、死亡、結 婚、移動といった人口を動かす動態統計に集約される「変動」を含んでいる。 一口に人口といっても、間口も広く、奥行きも深い。さらに、筆者は、人口を 研究する学問を示すデモグラフィ(demography)という言葉の原意、すなわち ギリシャ語の demos(民衆の)-graphy(状態の叙述)に帰って、人口学は民衆 誌であるべきだと考える。そうなると、「人口の歴史」は、裾野の大きく広が った研究分野だ、ということになる。
     実際、英国のある歴史人口学者は、著書の序章で、理想的な歴史人口学者の 持つべき条件として、人口学に関する造詣のみならず、隣接領域の経済学、社 会学、宗教、考古学、人類学、気象学、疫病学、産婦人科学に通暁しているこ と、統計学やコンピュータ処理に熟達し、古文書学、都市化や農法を知り、数 か国語をこなし云々と、気の遠くなるような事項を列挙している。しかし、彼 はそれに続いて、もちろんこのような理想的な学者は実在しない、として読者 を安心させる。けれども、彼の言葉は、人口の歴史を研究する者が、いかに広 範な知識と、分析能力を備えなければならないか、を示している。
     ところで、人口学は、諸社会科学のなかでも、最も「直線的」な学問分野の 一つである。統計学が人口統計から始まったことに関連するが、一つの理論体 系、統計学的方法を持ち、共通する概念・用語を持っているので、原理を十分 習得すれば、その応用によって成果を広げることが出来る。もっとも、その為 には、信頼度の高い統計の利用可能性が前提となるが。
     これに対し、家族の歴史は、かなり複雑である。人口学はヒトの持つ基本的 な属性(男女別と年齢別)に、後天的な属性(国籍、階級、身分、婚姻、教育 、富裕度、職業等)を加え、カテゴリィを相対的に容易に設けることができる 。ヒトは、必ず「産まれ」、必ず「死ぬ」。ところが、家族となると、属性は 千差万別、カテゴリィも実に多様である。多様な構造があり、継承があり、形 態がある。筆者自身、歴史人口学に関する作業をしている間は、比較的短期間 に結果を出すことができるが、家族史に移ると、何がその範囲なのかもわから ず、方法も、拠るべき専攻分野――多分家族社会学だろうが――は、人口学と 違って多元的で、簡単に学習できるものではない。筆者が、知らず知らず「家 族史」の領域で論文を書くことになると、譬えはよくないが、何か泥沼に脚を 踏み入れたような気になる。家族は「立体的」な存在で、それだけに取扱いが 厄介なのである。

    歴史人口学・家族史の基礎的論文を集成

     本書『歴史人口学と家族史』は、いままで、当然日本語文献として多くの方 々に読まれて然るべきであった歴史人口学と家族史に関する基礎的論文を訳出 ・集成したものである。これらを読まれて、歴史人口学と家族史の間にある共 通点と相違点の双方を読みとっていただければ幸甚である。さらに付け加えれ ば、ヨーロッパで成立した歴史人口学の基礎史料「教区簿冊」、また、その整 理法である「家族復元」は、家族史研究というより専ら歴史人口学の史料・方 法として利用・確立されていることが分る。家族史研究には、どうしても、居 住する家族の状態が記録されている「戸籍簿型」の史料が必要である。最後の 三章には、「教区簿冊」や「家族復元」は出てこない。
     これに対して、北東アジアの歴史人口学の主な史料となった日本の「宗門改 帳」、「人別改帳」、中国遼寧省の「戸口冊」は、同時に家族史の好材料でも ある。つまりわれわれは、歴史人口学と家族史を同時に研究できる、世界でも 稀な資源豊富な国に生まれたのであり、この利点を大いに生かさなければなら ない。

    (はやみ・あきら/麗澤大学教授)