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【書評・紹介】 |
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今、なぜゾラか 《目次》
人間の良心を体現──ゾラ追悼演説 アナトール・フランス 1章 〈鼎談〉ゾラの魅力 山田稔+宮下志朗+小倉孝誠 1 ゾラと日本 固定された日本のゾラ・イメージ 十九世紀フランス文学と日本 日本でのゾラ研究 ゾラとバルザック 『ナナ』翻訳の体験から 『ナナ』の世界を日本語に翻訳する 2 ゾラの作品について 都市のありようが凝縮されている 社会史、風俗史からみたゾラ 既存の文学理論を破る 鉄道・金融・消費を描いたゾラ ドレフュス事件とゾラ 現代に通じる文章 徹底的に取材する 時代を描く『三都市叢書』 ゾラの全体像 3 ゾラの現代性 現代的な描写 映画化されるゾラ作品 バルザックとゾラ 現代的な職業作家の誕生 原稿料によって作家は自由になる メダンに集う人びと」 ゾラの書簡集 いまフランスでゾラ作品はどのように読まれているか 第2章 マルチ作家の登場──ゾラ文学の射程 不遇な作家 ゾラの復権 小説家ゾラの価値 ジャーナリストとしてのゾラ 炯眼な美術批評家 ゾラ文学の新しさ 第3章 ゾラの多面性 1 小説家 初期作品・短篇 『ルーゴン・マッカール叢書』 三都市と四福音書 2 文学評論家――地平の拡大に向かって 三つの時期 封印を解かれた禁忌 小説家の資質と創作法 「実験小説論」 まとめ 3 美術批評家──絵画と文学の共闘と乖離 マネの擁護 一八六七年のマネ論 絵画と文学の共同戦線──自然主義 マネ、印象派評価の変貌 4 ジャーナリスト――素早く、具体的に、かつドラマティークに 第4章 ゾラの面白みあれこれ 小説の作法──創作スタイル…取材ノート 近代性(モデルニテ)──鉄道…デパート…万国博覧会 身体──セクシュアリティー…女の身体…においと文学…病の表象 視覚芸術──オランピアの眼差し…映画化されたゾラの作品…写真 風俗──自転車…ギャンブル…小道具と俗語表現…雨樋の猫… メダン…官能の庭…ゾラの動物好き 闇の世界──死刑制度…犯罪 第5章 文学マーケット――バルザックからゾラへ 文学志願者たち 「文学を殺す店」と直販方式 小説の時代へ 文学における金銭 新聞連載小説との競合 「アカデミー」による聖別と月額保証 第6章 ゾラはこれまでどう読まれてきたか 1 ゾラと同時代人たち ギュスターヴ・フロベール ステファヌ・マラルメ ギー・ド・モーパッサン 2 ゾラと二十世紀の作家 ヘンリー・ジェイムズ ハインリヒ・マン アンドレ・ジッド ルイ=フェルディナン・セリーヌ ミシェル・ビュトール 3 現代の批評装置はゾラをどう読んだか マルクス主義批評とゾラ アウエルバッハ『ミメーシス』 テーマ研究の系譜── バシュラールとミシェル・セール ジル・ドゥルーズ ジュリア・クリステヴァ ブルデューの芸術社会学 4 歴史家たちの視線 感性の空間――アラン・コルバン 政治空間――モーリス・アギュロン 経済空間――ル=ロワ=ラデュリとジャンヌ・ガイヤール イデオロギー空間――ヴィノックとオズーフ 5 ゾラと日本 鴎外から荷風へ ゾラ的小説の出現 翻案・翻訳の歴史 中村光夫の『風俗小説論』 現代日本におけるゾラ研究 〈付録〉 ゾラ年譜/ジャーナリスティックなゾラ作品/ 共和国大統領フェリックス・フォール氏への手紙(抄)/ ゾラ短篇「猫たちの天国」/取材ノートから |
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【藤原書店PR誌『機』2002年10月号より】 ゾラ没後百年記念出版<ゾラ・セレクション>(全11巻・別巻1)発刊迫る!残された最後の大物 宮下志朗
ゾラは、すぐれた都市路上観察者である。たとえば「引き立て役」という大好きな短編があって、それはモダンな都会を遊歩することの快楽は、まなざしの交差によって成立しているという認識から出発する。そこで、「お出かけには、引き立て役の不美人をレンタルします」という、あっと驚くような商売が出現しましたよというお話なのだ。モデルニテの時代、もはや絶対的な美は存在せず、モノや、人は記号として流通していく。ならば、隣りにはべらせた醜い女性との対比によって、あなたの凡庸なる顔立ちを、しばし美形に整形してあげましょうというのである。大衆消費社会と都市のライフスタイルが、視覚的な欲望と深いところでつながっていることを強く意識していたからこそ、このユニークな短編が生まれたにちがいない。 そんな彼が、膨大な取材ノートにもとづいて、ほぼ年に一作のペースで仕上げていったのが、代表作の『ルーゴン=マッカール叢書』。なるほど、質量ともにずっしりと重い長編の集成かもしれないけれど、金銭、セックス、レジャー、労働、正義等々の主題をめぐる濃密な物語は、さまざまの矛盾をかかえた現在の日本を占う上でも、きわめて有効なテクストにちがいない。 バルザックも、フロベールも、もちろんプルーストも、ほとんどの作品を日本語で読める。残された最後の大物、それが没後百年を迎えるエミール・ゾラの作品群にほかならない。翻訳にあたっては、読みやすさの工夫もしてあるので、ぜひとも手にとっていただきたい。ひとりのゾラ・ファンからのお願いである。 (みやした・しろう/東京大学教授)
“現代”を描いた最初の作家 小倉孝誠
エミール・ゾラは近代ヨーロッパを代表する小説家のひとりである。記念碑的な『ルーゴン=マッカール叢書』全二十巻の作者、自然主義文学の領袖、そしてドレフュス事件に際しては、「われ糾弾す」と題する公開状を発表して敢然とドレフュス擁護の立場を貫いた知識人として、彼の名前は日本でもよく知られている。しかし有名なわりにゾラはわが国で正しい評価を受けていない。理由のひとつは、大作家でありながら翻訳著作集がこれまでまとまったかたちで出版されたことがないからである。 ゾラはじつに多面的な作家である。すぐれた小説家として社会のメカニズムをえぐり、嗅覚の鋭いジャーナリストとして同時代の問題を論じ、炯眼な美術批評家として印象派の新しさを見抜いた。とりわけ小説家としてのゾラは「産業革命」を初めて文学のなかに登場させ、資本主義的な土地投機、中央市場、鉄道と駅、デパート、証券取引所などに文学テーマとしての市民権をあたえた。さらにゾラは、身体とそれにまつわる現象(セクシュアリティー、欲望、快楽、病理)を人間の根元的な条件と見なしていた。 要するにゾラは、現代にまでつながる近代の物質文明と欲望を総体的に物語った最初の作家なのである。没後百年にあたる今年、「ゾラ・セレクション」が刊行される運びとなったのは喜ばしい。軽薄さと安直さが何かしら斬新さと錯覚されている今の日本で、世界と人間を真摯に読み解こうとした文学に接することの意義は小さくないだろう。 (おぐら・こうせい/東京都立大教授)
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